グラスワンダー |
1995年産まれ。この世代は稀に見る(外)のレベルが高く、その中でも一際輝いていたのがグラスワンダーでした。 デビュー前から、馬体、調教の動きから評判となっていたグラスワンダー。デビュー戦は2番手から抜け出し2着以下に3馬身差付ける完勝。続くアイビーステークスでは一転後方からの競馬でしたが、1頭別次元の末脚で、直線だけで5馬身ちぎると、3戦目の京成杯3歳ステークス(現・京成杯2歳ステークス)では6馬身差の圧勝。走る度に着差を広げ、朝日杯3歳ステークス(現・朝日杯フューチュリティステークス)に向かいました。 朝日杯3歳ステークスでも単勝1.3倍の断然人気に支持されたグラスワンダー。レースはマウントアラタが前半の1000mを57.1秒で飛ばすウルトラハイペース。このハイペースを中段から追走したグラスワンダーは、直線に入ると、レースの上がりを1秒も上回る桁違いの末脚で、2着マイネルラヴに2馬身1/2差付ける完勝!叩き出したタイムは2歳馬(旧3歳馬)としては驚異的な“1:33:6”。なんだこの馬は?化け物か?中山競馬場はこの1頭の怪物出現にざわめきは収まりませんでした。 この朝日杯3歳ステークスではタイムもさることながら、かなりの素質馬が揃っていました。2着のマイネルラヴはその後スプリンターズステークスを制し、4着のアグネスワールドはアヴェイユ・ロンシャン賞、ジュライカップで海外GT2勝を上げ、10着のボールドエンペラーは日本ダービー2着と、それぞれが活躍し、グラスワンダーの評価を高めたのは言うまでもありません。 年が明け、当時はまだ(外)のクラシックへの出走はならなかった事から、NHKマイルカップを目標に調整されていたグラスワンダー。しかし、2月の調教中に骨折。春を全休し、秋に向けて休養を余儀なくされました。 そして秋。陣営が選んだ復帰戦は毎日王冠。しかしこの毎日王冠にはGT以上にハイレベルなメンバーが揃いました。完全に本格化し、前走5連勝で宝塚記念を制したサイレンススズカ。グラスワンダー不在のNHKマイルカップをデビューから5連勝で制したエルコンドルパサー。そしてグラスワンダー。歴史に名を残すこの3頭の最初で最後の対決となりました。 単勝1.4倍の圧倒的1番人気にサイレンススズカ。骨折休養明けで10ヶ月ぶりのグラスワンダーが3.7倍で続き、エルコンドルパサーが5.3倍で3番人気でレースは幕を開けました。予想通りサイレンススズカがハナを奪う中、グラスワンダーは中段から徐々に進出、4コーナーでは2番手まで上がり、怪物ぶりを発揮するのかと思われましたが、サイレンススズカを捉えるどころか直線に入ると失速。サイレンススズカから9馬身離された5着惨敗。厳しい復帰初戦となりました。 復帰2戦目は2500mのアルゼンチン共和国杯。1番人気ながら単勝オッズは3倍。前走の不甲斐ない敗戦にファンも半信半疑での出走となりました。しかしその不安は的中。先行したグラスワンダーでしたが、直線に入ると、まったく見せ場なく6着敗戦。この敗戦に早熟、骨折の影響で力を出せないなど、様々な憶測が飛び交い、予定していたジャパンカップを回避、去年衝撃的な走りをした、朝日杯3歳ステークスと同じ中山競馬場で行なわれる有馬記念1本に絞り調整を進めました。 単勝14.5倍、離された4番人気。秋2走の凡走から当然の人気でした。レースは菊花賞馬で1番人気のセイウンスカイが引っ張り、グラスワンダーは中段からレースを進め、3コーナー過ぎから抜群の手応えで上がって行き直線に向かいました。 直線に入ると、秋2走の凡走が嘘のような末脚で一気にセイウンスカイを交わすと、最後は後方からメジロブライトの追撃を1/2差振り切り、1年ぶりの勝利、有馬記念で鮮やかな復活劇を演じました。 有馬記念後は春に向けて休養に入り、春は安田記念を目指し、京王杯スプリングカップから始動。久々の1400m戦という事もあって心配されましたが、1番人気に応え快勝し、安田記念に向かいました。 安田記念では当たり前のように単勝1.3倍と圧倒的1番人気に支持され、レースでは中段からほぼ完璧なレース運びでGT3勝目目前だったグラスワンダー。しかし道中グラスワンダーの後ろにピタリと付けていたエアジハードがグラスワンダーに襲い掛かりました。内グラスワンダー、外エアジハード。2頭が完全に抜け出し、一騎打ちとなりましたが、ハナ差、エアジハードが差し切ったところがゴールでした。エアジハードはこの秋のマイルチャンピオンシップも制した名マイラー。そのエアジハードに負けたのは仕方ない感もありましたが、骨折後のグラスワンダーが左回りでは力を出し切れなかった事も確かでした。 安田記念2着後は予定通り宝塚記念へ向かったグラスワンダー。この宝塚記念で同世代のダービー馬スペシャルウィークと初対戦。前走天皇賞(春)を快勝したスペシャルウィークが単勝1.5倍で1番人気。グラスワンダーは2.8倍で2番人気でしたが、3番人気以降は大きく離され、レース前から2頭の一騎打ちの様相を呈していました。 レースは2頭とも中段からの競馬でしたが、スペシャルウィークがまくり気味に上がって行き、4コーナーでは早くも先頭に立ち直線に向かいました。しかし直線に入るとグラスワンダーはスペシャルウィークを並ぶ間もなく交わすと、楽々3馬身突き放し、スペシャルウィークをまるで子供扱いし、GT3勝目を上げました。朝日杯3歳ステークスのような圧倒的な力の違いを見せつけ、“怪物”健在を大きくアピールしました。 夏を休養に充てたグラスワンダーは去年同様、毎日王冠から始動しハナ差の辛勝。いくら休み明けとはいえ、やはり左回りでは右回りほどの爆発的な末脚は影を潜めました。それでも陣営は次走にジャパンカップ選択し、調整を進めていましたが、グラスワンダーに脚元の不安が生じ、やむなく回避。有馬記念に向けて再調整を余儀なくされました。 グラスワンダーがジャパンカップを回避している間、1頭のサラブレットが打倒グラスワンダーに向けて快進撃を続けていました。そうスペシャルウィークです。宝塚記念で屈辱的な敗戦を喫したスペシャルウィークは天皇賞(秋)、ジャパンカップを連勝し、引退レースとなる有馬記念で再びグラスワンダーに挑みました。 秋のGTを連勝し、順調に有馬記念に出走してきたスペシャルウィーク。一方毎日王冠後、脚元の不安からジャパンカップを回避し、明らかに順調さを欠いたグラスワンダー。しかし蓋を開けてみれば1番人気は2.8倍でグラスワンダー。スペシャルウィークは3倍で僅差の2番人気での出走となりました。やはりファンも宝塚記念のレースが頭から離れなかった事をこの人気が物語っていました。 そして迎えた2度目にして、最後の対決、有馬記念。グラスワンダーは後ろから4.5番手を追走、宝塚記念で早めの競馬が裏目に出たスペシャルウィーク・武豊は最後方からグラスワンダーをマークする形でレースを進めました。 近年稀に見るスローペースの中、このままのペースでは届かないと判断したグラスワンダー・的場は3コーナーからまくっていき、一気にペースが上がると、スペシャルウィーク・武豊もピタリと追走。勝負は直線に持ち越されました。 直線まず先頭に立ったのはツルマルツヨシ。力強い脚取りで抜け出しましたが、そこに翌年以降王道を歩むこととなるテイエムオペラオーが襲い掛かり、この2頭で決まりかと思われました。しかし外から2頭が並んで追い込んできました。もちろんその2頭はグラスワンダーとスペシャルウィーク。大混戦、残り100mでは4頭が並び、さらに残り50mでグラスワンダーとスペシャルウィークの2頭が抜け出し、最後はスペシャルウィークがグラスワンダーを差し切ったように見えました。武豊も差し切った自信があったのか、ガッツポーズ!スペシャルウィークが宝塚記念の借りを返し、引退レースを飾ったかのように思われました。しかし長い写真判定の末、“ハナ差”前に出ていたのはグラスワンダーでした。ゴール直前まで確かにスペシャルウィークがグラスワンダーを捉えていましたが、最後の最後、ゴール板を通過する時だけグラスワンダーがハナ差だけ前に出ていました。 スペシャルウィークを退け、グランプリ3連覇を達成したグラスワンダーは、スペシャルウィークとは対照的に現役を続行。しかしその後3戦、まったく見せ場なく敗れ、怪物もターフを去る事となりました。 衝撃の朝日杯3歳ステークス。その後骨折。今思えばグラスワンダーが万全の体調で出走したのは、朝日杯3歳ステークスが最初で最後でした。それでもグランプリ3連覇を含めGT4勝を上げるあたりは、まさに“怪物!”。グラスワンダー、エルコンドルパサー、スペシャルウィーク、いずれも血統的にも評価が高く、その子供たちが日本ダービーで対決する事は夢でも何でもありません。 |
グラスワンダー | |
生年月日 | 1995,2,18 |
性別 | 牡 |
毛色 | 栗毛 |
生産地 | アメリカ |
生産者 | フィリップスレーシング |
馬主 | 半沢(有) |
調教師 | 尾形充弘 |
競争成績 | 15戦9勝 |
GT勝ち鞍 | 朝日杯3歳S・有馬記念(2回)・宝塚記念 |
獲得賞金 | 691,646,000円 |
レース名 | 年月日 | 競馬場 | 格 | 人気 | 着順 | 騎手 | 距離 | 馬場 | タイム | 着差 | 1着(2着)馬 |
新馬 | 1997/9/13 | 中山 | - | 1 | 1 | 的場 | T1800 | 良 | 1.52.4 | 3馬身 | (ビルトシェーン) |
アイビーステークス | 10/12 | 東京 | OP | 1 | 1 | 的場 | T1400 | 良 | 1.21.9 | 5馬身 | (マチカネサンシロー) |
京成杯3歳ステークス | 11/8 | 東京 | GU | 1 | 1 | 的場 | T1400 | 良 | 1.21.9 | 6馬身 | (マチカネサンシロー) |
朝日杯3歳ステークス | 12/5 | 中山 | GT | 1 | 1 | 的場 | T1600 | 良 | 1.33.6 | 2.1/2馬身 | (マイネルラヴ) |
毎日王冠 | 1998/10/11 | 東京 | GU | 2 | 5 | 的場 | T1800 | 良 | 1.46.4 | 9馬身 | サイレンススズカ |
アルゼンチン共和国杯 | 11/7 | 東京 | GU | 1 | 6 | 的場 | T2500 | 良 | 2.33.5 | 3.1/4馬身 | ユーセイトップラン |
有馬記念 | 12/27 | 中山 | GT | 4 | 1 | 的場 | T2500 | 良 | 2.32.1 | 1/2馬身 | (メジロブライト) |
大阪杯 | 1999/4/4 | 阪神 | GU | 取消 | 的場 | T2000 | 良 | 出走取消 | サイレントハンター | ||
京王杯SC | 5/15 | 東京 | GU | 1 | 1 | 的場 | T1400 | 良 | 1.20.5 | 3/4馬身 | (エアジハード) |
安田記念 | 6/13 | 東京 | GT | 1 | 2 | 的場 | T1600 | 良 | 1.33.3 | 鼻 | エアジハード |
宝塚記念 | 7/11 | 阪神 | GT | 2 | 1 | 的場 | T2200 | 良 | 2.12.1 | 3馬身 | (スペシャルウィーク) |
毎日王冠 | 10/10 | 東京 | GU | 1 | 1 | 的場 | T1800 | 良 | 1.45.8 | 鼻 | (メイショウオウドウ) |
有馬記念 | 12/26 | 中山 | GT | 1 | 1 | 的場 | T2500 | 良 | 2.37.2 | 鼻 | (スペシャルウィーク) |
日経賞 | 2000/3/26 | 中山 | GU | 1 | 6 | 的場 | T2500 | 良 | 2.36.3 | 6馬身 | レオリュウホウ |
京王杯SC | 5/14 | 東京 | GU | 1 | 9 | 的場 | T1400 | 良 | 1.21.6 | 3.1/2馬身 | スティンガー |
宝塚記念 | 6/25 | 阪神 | GT | 2 | 6 | 蛯名 | T2200 | 良 | 2.14.7 | 5馬身 | テイエムオペラオー |
Silver Hawk 1979 / 鹿毛 |
Roberto 1969 / 鹿毛 |
Hail to Reason | Turn-to |
Nothirdchance | |||
Bramalea | Nashua | ||
Rarelea | |||
Gris Vitesse 1966/ 芦毛 |
Amerigo | Nearco | |
Sanlinea | |||
Matchiche | Mat de Cocagne | ||
Chimere Fabuleux | |||
Ameriflora 1989 / 鹿毛 |
Danzig 1977 / 鹿毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | |||
Pas de Nom | Admiral's Voyage | ||
Petitioner | |||
Graceful Touch 1978 / 鹿毛 |
His Majesty | Ribot | |
Flower Bowl | |||
Pi Phi Gal | Raise a Native | ||
Soaring |
グラスワンダー種牡馬成績 (代表産駒) | ||
代表産駒 | 性 | 主な勝ち鞍等 |
フェリシア | 牝 | フェアリーステークス |
グラスワンダー兄弟 (代表兄弟) | ||
兄弟 | 性 | 主な勝ち鞍等 |
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